なおるん毛髪情報局
既存毛間植毛とは?髪が残っている部分の密度を上げる手術の難しさとショックロス対策
既存毛間植毛とは、髪がまだ残っている部分の毛と毛の間にグラフトを移植し、見た目の密度を高めることを目指す植毛です。「密度アップ植毛」とも呼ばれます。
既存毛を避けながら移植穴を作る必要があるため、毛の少ない部分への植毛とは異なる配慮が求められます。重要なポイントの一つは、残っている既存毛への損傷をできるだけ抑えることです。
主なリスクの一つがショックロス(術後に既存毛が抜ける現象)です。多くは一時的ですが、細くなっていた既存毛などでは元の密度まで回復しない場合もあるため、経験のある医師に相談することが大切です。
なお、移植部の周りの毛が一時的に抜ける現象そのものについては、植毛後のショックロスとは?で詳しく解説しています。
この記事では「既存毛間植毛」に絞って説明します。
既存毛間植毛(密度アップ植毛)とは
既存毛間植毛は、生え際の少し奥や前頭部、頭頂部など、毛が細くなって地肌が透けて見えるものの、まだ毛が残っている部分に行う植毛です。
生え際の位置を変えずに、今ある毛の間を埋めるようにグラフトを植えて、透け感を減らすことを目指します。
次のような方が対象になることがあります。
- 生え際の奥や分け目が、照明の下で透けて見える方
- AGA(男性型脱毛症)の治療を続けているが、密度が十分に戻らない方
- 過去の植毛の仕上がりの密度に満足できず、2回目・修正を検討している方
2回目の植毛や他院修正では、すでに毛が生えている部分への追加移植が必要になることもあります。
通常の植毛との違い
| 項目 | 既存毛が少ない部分への移植 | 既存毛が多い部分への移植(既存毛間植毛) |
|---|---|---|
| 移植穴の作成 | デザインに沿って配置しやすい | 既存毛の根元を避け、毛の向きに合わせて作る必要がある |
| 主なリスク | デザインの不自然さ、密度不足 | 既存毛の損傷、ショックロス、密度のムラ |
| 必要な配慮 | デザインと密度の計画 | 既存毛の保護に追加の配慮が必要(時間もかかりやすい) |
既存毛間植毛が難しい理由
毛のある部分に移植穴を作るときは、頭皮の下にある既存毛の毛根を傷つけないよう、毛の角度や向きに合わせる必要があります。
毛髪外科の教科書『Hair Transplantation』第6版(Unger W・Unger M「Planning Principles」の章。「Dense Packingは必要か」を論じた項)でも、既存毛が多い部分ほど慎重に移植穴を作るべきで、移植穴の作成で既存毛を傷つけると、その毛が生えてこなかったり、細い毛になったりすることがあると述べられています。
ショックロスには、手術による頭皮への負担や毛周期の変化などが関わると考えられていますが、詳しい仕組みは完全には解明されていません。
同じ章では、移植穴の作成による血流の低下が一因になりうること、移植の密度を抑えるとショックロスが少なかったとする報告があることにも触れられています。
ただし、ショックロスには既存毛の状態や頭皮の血流なども関わるため、移植密度だけで起こるかどうかを予測できるわけではありません。密度だけを優先せず、既存毛の状態や頭皮への負担を考えて計画することが大切です。
既存毛間植毛で注意すべき4つのリスク
既存毛間植毛で注意すべきリスクとして、次の4つが考えられます。
- 一時的な脱毛のあと、AGAの進行や毛包の損傷などによって以前の密度まで戻らない
- 移植穴の作成による既存毛の毛包の損傷
- 移植部と周囲の髪の密度差による見た目のムラ
- 毛のう炎などの炎症(強い場合は移植部に影響することがあります)
ショックロスを抑えるための当院の考え方
当院では、既存毛間植毛では「既存毛をできるだけ傷つけないこと」を特に重視し、次の3点に配慮しています。
①移植穴の器具を使い分ける
既存毛の間や奥の部分には直径0.63mmのマイクロホールスリットを使い、既存毛の位置や毛の角度に配慮しながら移植穴を作成しています。
移植する部位や毛の向き、デザインに応じて、ラインスリットとも使い分けます。器具の径だけで安全性が決まるわけではなく、既存毛の位置や角度に合わせた操作も重要です。
②毛の向きと角度に合わせる
既存毛の生える角度をなぞるように移植穴を作り、皮膚の下で既存毛と交わらないように配慮します。
③既存毛の状態を見極める
細くなった既存毛についても、AGA治療による改善の可能性と限界、今後の進行も考えたうえで、できるだけ温存しながら、移植の必要性や配置を判断します。
こうした対策を行っても、ショックロスが起こる可能性はあります。また、その程度や回復までの経過には個人差があります。
ショックロスの時期と回復の目安
| 時期 | 起こりうること |
|---|---|
| 術後2週間〜3ヶ月ごろ | 移植部の周りの既存毛が抜けることがある |
| 術後数ヶ月〜 | 多くは回復に向かう(生え際は比較的早く、前頭部・頭頂部は時間がかかる傾向) |
| 術後1年前後 | 移植毛と既存毛を合わせた仕上がりを評価する |
院長の臨床経験では、ショックロスで抜けた既存毛が再び伸びて見た目の密度が戻るまでの期間には部位差・個人差があり、生え際は2〜5ヶ月、前頭部や頭頂部は4〜9ヶ月ほどが一つの目安で、頭頂部では経過が長くなったり、戻りにくかったりすることもあると考えています。
これは院長の臨床経験に基づくおおよその目安で、個々の回復期間を保証するものではありません。抜けた量だけで手術の良し悪しを判断するのは難しいため、気になる場合は術後検診で相談するのがおすすめです。
既存毛間植毛のリスク・デメリットと費用
既存毛間植毛では、上記のショックロスや既存毛の損傷に加え、周囲の既存毛がAGAの進行で細くなると、時間とともに移植部とのバランスが変わることがあります。AGAの治療を続けるかどうかは、医師と相談しながら判断します。
また、自毛植毛には、腫れ、痛み、出血、かゆみ、感染、血行不全、移植毛の生着不良、傷跡、採取部の密度低下、毛のう炎、感覚の違和感、くせ毛などのリスクがあります。症状の程度や持続期間には個人差があります。
自毛植毛は保険適用外の自由診療です。当院の手術料金は「基本料金205,000円(税込)+1グラフトあたりの料金×グラフト数」で、このほか手術前の血液検査11,000円(税込)が必要です。
血液検査を含む総額は、1,000グラフトの場合、刈り上げる方法(1,078円/グラフト)で1,294,000円(税込)、刈り上げない方法(1,870円/グラフト)で2,086,000円(税込)です。
なお、感染症がある方は、別途感染症対策料198,000円(税込)がかかります。詳しくは植毛メニュー(料金表)をご確認ください。
既存毛間植毛に関するよくある質問
Q. 毛の隙間がほとんどないように見えても、植毛できますか?
ご自身では隙間がないように見えても、移植できる場合はあります。一方で、既存毛の密度が十分な場合は、追加移植の利点より既存毛を傷つけるリスクが上回ることもあります。
実際に行うべきかどうかは、毛の太さや密度を診察して判断します。
Q. 薬(AGA治療)を続けていても、手術はできますか?
治療を続けながら手術を受ける方は多くいます。ただし、服用中の薬は事前にすべて医師へお伝えください。手術前後の服用については、自己判断で中止せず医師と相談してください。
Q. 他院で植毛した部分にも、密度アップはできますか?
当院では、前回の手術から半年以上経過した段階で、修正や追加の移植の必要性をご相談いただけます。
最終的な判断は、前回の移植毛の発毛経過を踏まえて行います。実際に可能かどうかは、ドナーの残り具合や頭皮の状態を診察して判断します。前回の手術内容が分かると、より正確に判断できます。
Q. 既存毛間植毛で、どのくらい密度が上がりますか?
上がり方は、既存毛の密度や髪の太さ、ドナー(採取できる毛)の量によって異なるため、一律にはお伝えできません。
既存毛をできるだけ傷つけないためには、1回の手術で移植できる密度に限りがあります。目標とする密度によっては、2回に分けて移植を計画することもあります。診察では、期待できる変化の目安を含めてご説明します。
Q. 何グラフトくらい必要になりますか?
必要なグラフト数は、移植する範囲(分け目のみ、前頭部全体など)と、既存毛の密度や太さによって変わります。
既存毛間植毛は、毛のない部分に植える場合に比べて、移植する範囲が限られることも多い手術です。具体的なグラフト数と費用は、診察で頭皮の状態を確認したうえでご提案します。
Q. 女性の分け目や頭頂部の薄毛にも受けられますか?
分け目や頭頂部など、髪が残っていて地肌が透けて見える部分は、既存毛間植毛の対象になることがあります。
一方で、頭部全体の髪が均一に細くなっている場合など、植毛よりも治療を優先したほうがよいケースもあります。薄毛の原因や進行の状態を診察したうえで、植毛が適しているかを判断します。
Q. 刈り上げない方法でも、既存毛の間に植毛できますか?
既存毛のある部分でも、刈り上げない方法で移植できる場合があります。
ただし、刈り上げる方法と比べて、施術時間や費用、移植できる範囲などが異なります。どちらが適しているかは、移植する部位や範囲、ご希望の仕上がりを踏まえて医師とご相談ください。
まとめ
既存毛間植毛(密度アップ植毛)は、毛が残っている部分の透け感を減らすための手術です。
既存毛を避けながら移植するための配慮が必要で、既存毛をできるだけ傷つけないことと、ショックロスへの配慮が大切です。
ショックロスの多くは時間とともに回復しますが、一部が戻らないこともあるため、既存毛のある部分の手術経験が豊富な医師に、リスクを含めて相談することが大切です。
参考文献:Unger W, Shapiro R, ed. Hair Transplantation, 6th ed. Thieme; 2022
執筆:編集部/監修:内田直宏医師