なおるん毛髪情報局
人工毛植毛の後に自毛植毛はできる?炎症・瘢痕と密度の調整
【この記事の結論】
過去に人工毛植毛(合成繊維の毛を頭皮に埋め込む方法)を受けた部分にも、自毛植毛を検討することはできます。大切なのは、下記を手術の前に診察で確認することです。
①人工毛が頭皮に残っているか(残っている場合はその位置や周りの状態)
②細菌感染や異物反応による炎症が今も続いていないか
③瘢痕(傷跡として残った組織)がどの程度あるか
炎症や瘢痕が強い部分は、血流や皮膚の状態によって移植した毛が生着しにくくなることがあるため、移植の密度を控えめにしたり、時期を分けたりして計画することがあります。当院では、炎症が落ち着き、頭皮の状態やドナーの条件が適している場合に自毛植毛を検討しています。
ただし、人工毛植毛の後の生着や経過を調べた研究は限られており、通常の頭皮と同程度の結果が得られるかは明らかではありません。状態によっては手術を見送ることもあります(当院の方針)。
※この記事は、頭皮に人工毛を埋め込む「人工毛植毛」の後に自毛植毛を考える方向けです。増毛(自分の髪に人工毛を結びつける方法)やヘアシート・かつらからの切り替えは「増毛・ヘアシートから自毛植毛に切り替えるときの注意点」で解説しています。自毛植毛の全体像は「自毛植毛」のページをご覧ください。
人工毛植毛と自毛植毛の違い
人工毛植毛は、ポリアミドやポリエステルなどの合成繊維で作られた毛を、局所麻酔をしたうえで頭皮に1本ずつ埋め込む方法です。自分の毛を使わないため、後頭部の毛(ドナー)が少ない方でも本数を増やせる点が利点として挙げられてきました。一方で、頭皮にとっては異物であるため、炎症や感染、異物に対する反応が起こることがあり、繊維が抜け落ちたり、取り除いたりする必要が生じることがあると報告されています。
| 項目 | 人工毛植毛 | 自毛植毛 |
|---|---|---|
| 使うもの | 合成繊維で作られた毛 | 後頭部などから採取した自分の毛(毛包ごと) |
| 毛の伸び方 | 伸びず、生え変わらない。抜けた分はその後生えてこない | 生着すれば自分の毛として伸び、生え変わる |
| 主な注意点 | 異物反応・炎症・感染、抜け落ちによる追加処置、瘢痕が残ることがある | 手術に伴う痛み・腫れ、ショックロス、生着しない可能性、採取部の傷跡など |
| 国内外の位置づけ | 日本皮膚科学会の脱毛症の診療ガイドライン(2017年版)では「行うべきではない」とされている。米国では、頭皮に埋め込む人工毛繊維は食品医薬品局(FDA)により禁止された医療機器とされている | 脱毛症の診療ガイドラインで治療の選択肢の1つとして位置づけられている |
人工毛植毛と自毛植毛の長い目で見た違いは、ほかの治療と比べながら「AGA治療薬と自毛植毛はどっち?」でも触れています。この記事では、すでに人工毛植毛を受けた方が、次に自毛植毛を考えるときの確認点に絞って解説します。
人工毛植毛の後に自毛植毛を考えるときに確認すること
人工毛植毛を受けた部分は、見た目には人工毛が抜けていても、皮膚の中の状態が人によって大きく異なります。手術の前に、主に次の点を確認します。
| 確認すること | なぜ大切か |
|---|---|
| 人工毛が残っていないか | 抜けたように見えても、繊維の一部が皮膚の中に残っていることがあると報告されている。残った繊維が炎症の原因になることがある |
| 細菌感染や異物反応による炎症が続いていないか | 赤み・腫れ・膿・痛みが続いている状態では、移植した毛が育ちにくく、感染が広がるおそれもある。膿や膿のような分泌物があっても原因は細菌感染だけとは限らず、異物反応が関わる場合や両者が重なっている場合もあるため、必要に応じて培養検査なども含めて評価し、まず炎症の治療を優先する |
| 瘢痕の範囲と硬さ | 瘢痕では、正常な頭皮と比べて血流や皮膚の柔らかさが変化していることがあり、移植の密度や器具の選び方に影響する |
| 残っている自分の毛(既存毛) | 人工毛の間に生えている自分の毛を傷つけないよう、移植の位置と角度を考える必要がある |
| ドナー(後頭部の毛)の量と質 | 人工毛植毛を選んだ理由が「ドナーが少ないと言われた」ことの場合もあるため、採取できる量を改めて確認する |
当院では、視診・触診に加えてマイクロスコープ(拡大鏡)で頭皮を見て、毛穴の周りの赤みや硬さ、残っている繊維の有無、既存毛の太さを確認したうえで、植毛ができるかどうかと進め方を判断しています(当院の方針)。
ただし、皮膚の深い部分に残った繊維や炎症の程度は、表面からの観察だけでは判断できない場合があり、必要に応じて追加の検査や皮膚科などでの診察を検討します。受診の際は、人工毛植毛を受けた時期・回数・本数、人工毛を取り除いた時期、これまでに炎症や感染で治療を受けたことがあるかを分かる範囲でお知らせください。
後頭部から採れる量の考え方は「自毛植毛は一生で何グラフト採れる?」で解説しています。
人工毛植毛の後に自毛植毛ができるケース・できないケース
人工毛植毛を受けた方の頭皮の状態は、人によって大きく異なります。当院では診察の結果をもとに、大きく次の3つに分けて進め方を考えています(当院の方針)。どこに当てはまるかは、ご自身の見た目だけでは判断できないことが多いため、最終的には診察で確認します。
| 区分 | 頭皮・体の状態の例 | 当院での進め方 |
|---|---|---|
| ① 自毛植毛を検討できる状態 | ・赤み、腫れ、膿、痛みが続いていない ・人工毛が残っていない、または残っていても周りに炎症がない ・瘢痕(傷跡の組織)が部分的で、皮膚に柔らかさがある ・希望する範囲に見合うドナー(後頭部の毛)が確保できる | 頭皮の状態に合わせて、移植の密度・器具・植える深さを決めて計画します。瘢痕がある部分は、生着を確認しながら段階的に密度を上げる計画をとることがあります |
| ② 先に治療が必要な状態 | ・赤み、腫れ、膿、痛み、しこりが続いている ・炎症の原因と考えられる人工毛が残っている ・ニキビのようなぶつぶつ(毛嚢炎)を繰り返している | 手術より先に炎症の治療を行います。必要に応じて、残った繊維の除去、培養検査、皮膚科などでの診察を検討します。炎症が落ち着いてから、改めて植毛ができるかを判断します |
| ③ 手術を見送ることがある状態 | ・瘢痕が広い範囲にあり、皮膚が硬く血流が少ないと考えられる ・治療をしても炎症をくり返している ・ドナーが少なく、希望する範囲に必要な本数を確保できない ・持病やお薬の状況から、手術のリスクが高いと考えられる | 植毛を行っても十分な生着が見込みにくい場合や、リスクが利点を上回ると考えられる場合は、手術を勧めないことがあります。移植する範囲を絞る方法や、植毛以外の方法をご提案します |
※上の表は目安です。②の状態でも、治療後に①へ移る方もいます。①の状態でも、瘢痕や既存毛の状態によっては、通常の頭皮と同じ仕上がりにならない場合があります。
受診前のセルフチェック
次の項目に当てはまるものがあれば、受診の際にお伝えください。診断の代わりになるものではありませんが、診察をスムーズに進める手がかりになります。
- 人工毛植毛を受けた部分に、赤み・腫れ・かゆみ・痛みがある
- 膿やかさぶたが出たり、治ったりをくり返している
- 触ると硬い部分や、小さなしこり・くぼみがある
- 人工毛がまだ頭皮に残っている(本数が分からない場合も含む)
- 人工毛を自分で抜いたことがある
- 以前のクリニックで「ドナーが少ない」と言われたことがある
- 持病がある、または血をさらさらにする薬などを飲んでいる
炎症と瘢痕が生着に与える影響
移植した毛(グラフト)は、移植された部分の皮膚から血流を受けて生着します。そのため、移植する部分の皮膚の状態は、仕上がりに関わる大切な条件の1つです。生着の仕組みは「植毛の生着率(定着率)とは?」で解説しています。
- 炎症・感染が続いている場合(一般的な外科的判断):炎症や感染がある皮膚に移植すると、グラフトが育ちにくく、感染が悪化するおそれもあります。赤みや膿がある間は、先に治療して落ち着くのを待ちます。
- 瘢痕がある場合(瘢痕部への植毛に関する一般的な知見):外傷や手術の傷跡に植毛することはできますが、瘢痕の質によって結果にばらつきが出やすいことが知られています。人工毛植毛の後の瘢痕について、成績が確立しているわけではありません。皮膚が硬く血流が少ない部分では、生着しにくいことがあります。
- 密度の考え方(院長の臨床上の見解):活動性の炎症や感染がある場合は、先に治療を優先します。当院では、炎症が落ち着いた後も瘢痕が残る部分は、頭皮の状態に応じて移植の密度を通常より控えめにすることがあります。一度に密度を上げようとせず、1回目の発毛・密度の状態を評価してから、必要に応じて2回目で密度を補う計画をとることもあります。
- 根拠が限られること:人工毛植毛の後に自毛植毛を行った場合の生着や経過をまとめた研究は少なく、どの程度の瘢痕でどれだけ生着が下がるかは、まだはっきりしていません。
人工毛植毛の後に残った炎症の跡で、毛穴が小さくくぼんだり、皮膚が凸凹になったりしている場合もあります。人工毛植毛の瘢痕による凹凸と、自毛植毛の後に起こるピッチング・リッジングとは原因が異なりますが、見え方の参考として、自毛植毛後の凹凸の種類と考え方は「植毛後の頭皮の凹凸(ピッチング・リッジング)とは?」、植毛後にできるニキビのようなぶつぶつは「植毛後のニキビ・毛嚢炎はなぜできる?」で解説しています。
手術の進め方と時期の考え方
人工毛植毛の後の自毛植毛は、皮膚の状態に合わせて段階的に考えます。下の表はおおまかな流れで、実際の進め方や期間は診察で決めます。
| 段階 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 1. 診察 | マイクロスコープで、残っている繊維・炎症・瘢痕・既存毛・ドナーを確認する | 炎症が続いている場合は、手術より先に治療を優先する |
| 2. 炎症の治療・経過観察 | 赤み・膿・痛みがある場合は治療し、落ち着くのを待つ。炎症の原因になっている繊維が残っていれば、取り除くことを検討する。残っている場所や周りの組織の状態によっては、完全には取り除けない場合もある | 待つ期間は皮膚の状態によって異なり、一律には決められない |
| 3. 自毛植毛 | 瘢痕の厚さや硬さ、皮膚の状態を踏まえ、移植の密度や器具の大きさ、移植床(毛を植える穴やスリット)の深さを慎重に検討する | 瘢痕が強い部分は密度を控えめにすることがある。状態によっては移植を行わない場合もある |
| 4. 経過の確認 | 術後1年前後を1つの目安に、発毛・生着の状況を確認する。瘢痕の状態によっては評価の時期を調整する | 密度が足りない場合は、2回目の手術を相談することがある |
人工毛を埋め込んだ部分にも自分の毛が残っている場合があり、その間に移植する場合は、既存毛を傷つけない配慮が必要です。既存毛の間に植える手術の難しさは「既存毛間植毛とは?」で解説しています。刈り上げずに行う方法(アルモUn-SHAVEN法)を選べるかどうかも、移植部の状態や本数によって変わります。
前のクリニックで提案された内容と当院の見立てが違う場合など、判断に迷うときは「植毛のセカンドオピニオンの受け方」も参考にしてください。
自毛植毛の費用と主なリスク・副作用
当院の自毛植毛は、後頭部などから毛包単位で毛を採取し、薄毛の部分へ移植する手術(FUE)です。自毛植毛は保険適用外の自由診療です。手術料金は「基本料金205,000円(税込)+1グラフトあたりの料金×グラフト数」で計算します。1グラフトあたりの料金は、アルモHi-STANDARD法(刈り上げる)が1,078円、アルモUn-SHAVEN法(刈り上げない)が1,870円(いずれも税込)です。
| グラフト数 | アルモHi-STANDARD法(刈り上げる) | アルモUn-SHAVEN法(刈り上げない) |
|---|---|---|
| 500グラフト | 744,000円 | 1,140,000円 |
| 1,000グラフト | 1,283,000円 | 2,075,000円 |
| 1,500グラフト | 1,822,000円 | 3,010,000円 |
※いずれも税込・手術料金の計算例です(2026年10月時点)。このほか手術前の血液検査11,000円(税込)がかかり、所定の感染症がある方は別途感染症対策料198,000円(税込)がかかります(対象となる感染症や適用条件は事前にご説明します)。血液検査を含めた総額の例:1,000グラフトを刈り上げる方法で行う場合、1,283,000円+11,000円=1,294,000円(税込)です。人工毛の除去や瘢痕に対する処置など、自毛植毛以外の処置が必要な場合は、植毛の料金とは別に費用がかかることがあります。必要な処置の内容・実施の可否・費用は診察後に個別にご説明し、事前にお見積もりを提示します。最新の料金は植毛メニュー(料金表)をご確認ください。手術は通常1回、1日で行いますが、瘢痕の状態や必要な密度によっては複数回の手術を計画する場合があります。術後は経過に応じて検診を行い、仕上がりは術後1年前後を目安に確認します。
主なリスク・副作用:術後の痛み・腫れ・内出血・出血、かさぶた、かゆみ、既存毛の一時的な脱毛(ショックロス。回復しない場合を含む)、感染、毛嚢炎、移植部の小さなしこり、採取部や移植部のしびれ・感覚の鈍さ、採取部の点状の傷跡や密度の低下、移植部の凹凸や色の変化、まれに移植部の血行障害(皮膚の壊死を含む)、移植毛が十分に生着しない可能性(瘢痕や炎症の跡がある部分では生着しにくいことがあります)、仕上がりに左右差が出る可能性があり、仕上がりの自然さや密度の感じ方には個人差があります。自毛植毛はAGAの進行を止めるものではありません。当院の症例は症例紹介でご覧いただけます(仕上がりには個人差があります)。
人工毛植毛の後の自毛植毛に関するよくある質問
Q. 人工毛がまだ何本か残っています。そのままで自毛植毛はできますか?
残っている人工毛の本数や場所、周りに炎症があるかによって判断が変わります。炎症を起こしている繊維がある場合は、先に治療や除去を検討することがあります。自己判断で引き抜くと、繊維の一部が皮膚の中に残ったり、傷や感染の原因になったりすることがあるため、まずは診察で状態を確認してください。
Q. 人工毛を抜いてから何年もたっています。それでも影響はありますか?
炎症が治まって時間がたっている場合でも、瘢痕や毛穴の周りの硬さが残っていることがあります。見た目では分かりにくいため、拡大して皮膚の状態を確認し、移植の密度や方法を決めます。
Q. 人工毛植毛の跡の凹凸は、自毛植毛で目立たなくなりますか?
毛が生えそろうことで皮膚の質感が目立ちにくくなる場合はありますが、植毛は凹凸そのものを治す方法ではありません。凹凸の程度や希望の髪型を踏まえて、期待できる範囲を事前にご説明します。
Q. ドナーが少ないと言われて人工毛植毛を選びました。自毛植毛はできますか?
後頭部の毛の量・太さ・薄毛の進み方によって、採取できる量と移植できる範囲は変わります。診察で改めてドナーを確認し、自毛植毛で目指せる範囲と、薬による治療など他の方法の組み合わせを含めて検討します。自毛植毛に関するその他のよくある質問はよくある質問のページにまとめています。
まとめ
- 人工毛植毛を受けた部分にも、自毛植毛を検討することはできます。ただし、残っている繊維・炎症・瘢痕・既存毛・ドナーの状態を手術前に確認することが前提です。
- 炎症や感染が続いている場合は、手術より先に治療を優先し、落ち着いてから計画します。
- 瘢痕や炎症の跡がある部分は生着しにくいことがあるため、密度を控えめにしたり、2回に分けたりすることがあります(院長の臨床上の見解)。人工毛植毛の後の経過をまとめた研究は少なく、根拠は限られています。
- 自毛植毛は自由診療で、費用は「基本料金+1グラフトの料金×グラフト数」で計算します。仕上がりには個人差があります。
参考文献:Unger R, Shapiro R, eds. Hair Transplantation. 6th ed. Thieme; 2022(非手術的な選択肢の章:合成繊維の毛の埋め込みの利点と、炎症・感染・異物反応・瘢痕のリスク/瘢痕部への植毛では結果が瘢痕の質に左右されること)。日本皮膚科学会「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン 2017年版」(AGAなどに対する治療法の評価であり、人工毛植毛の後の自毛植毛の成績を直接示すものではありません)。「当院では」「院長は」とある記述は、院長の臨床上の見解または当院の案内です。
執筆:編集部/監修:内田直宏医師