なおるん毛髪情報局
植毛した毛が数年後に薄くなる原因とは?ヘアサイクル・AGAの進行・安全領域から考える相談の目安
【この記事の結論】
植毛した毛は、移植後も元の場所(後頭部・側頭部)の毛と同じように「伸びる・抜ける・また生える」というヘアサイクルを繰り返します。そのため、術後数年たって移植部の毛が抜けたとしても、それだけで移植した毛包が失われたとは限りません。
ただし、通常のヘアサイクルだけで移植部が目に見えて薄くなるとは一般に考えにくく、ほかの原因も検討する必要があります。数年後に薄くなったと感じる原因としては、移植部の奥や周りに残っていた既存毛のAGA(男性型脱毛症)の進行、AGAの影響を受けやすい範囲から採取された毛の細毛化、加齢による毛質の変化、ほかの脱毛症などが考えられ、いくつかが重なることもあります。
生え変わりによるものと自己判断せず、どこが・いつから・どのように薄くなったのかを整理して、手術を受けた医療機関に相談しましょう。
※術後2週〜数ヶ月に起こる周りの髪の一時的な脱毛は「植毛後のショックロスとは?」、術後半年の時点で生えてこないときの考え方は「植毛から半年で生えてこないのは失敗?」で解説しています。この記事では、いったん生えそろったあと、術後1年以上たってから「薄くなった気がする」と感じたときの考え方に絞って説明します。
目次
植毛した毛にもヘアサイクルがある
髪の毛は1本ずつ、成長期(毛が伸びる時期)・退行期(成長が止まる時期)・休止期(毛の成長が休止する時期)を繰り返しています。一般に、頭髪の成長期は2〜6年ほど、退行期は2〜3週間ほど、休止期は3ヶ月前後とされ、休止期の毛が抜けたあとは、同じ毛包から次の毛が生えてきます。
自毛植毛は、後頭部や側頭部の毛を毛包ごと薄い部分に移す治療です。後頭部・側頭部の毛の多くは、移植したあとも元の場所の性質を保つと考えられており(「ドナー・ドミナンス」と呼ばれる考え方)、これが自毛植毛の基本になっています。移植した毛も、元の場所の毛と同じようにヘアサイクルを繰り返します。
術後早期の脱毛とは別のもの
術後1ヶ月前後に移植した毛がいったん抜け、数ヶ月後に生え始めるのは、手術による一時的な変化です。ここでいう「数年後のヘアサイクル」は、それとは別のもので、生えそろった移植毛が、1本ずつ通常の生え変わりを迎えることを指します。
当院の考え方:移植毛も通常のヘアサイクルを繰り返す
一般的な頭髪の成長期は数年単位で、移植毛にも1本ずつ異なる毛周期があります。当院では、移植毛が生え変わるまでの期間の参考値として3〜5年程度を目安にしていますが、これは移植毛に特有の周期を示すものではなく、実際の周期は毛ごと・人ごとに異なります。移植毛全体の周期が一定の年数にそろうわけではありません。
移植毛は術後に近い時期から生え始める傾向がありますが、その後も周期がそろったまま、数年後にまとまって抜けるかどうかは、十分に明らかになっていません。通常のヘアサイクルでは成長期の毛と休止期の毛が混在しているため、生え変わりだけで目に見える密度低下が起こるとは限りません。
当院でも、術後数年たってから移植部が薄くなったと相談される方はいます。それが通常の生え変わりによるものか、AGAの進行や移植毛自体の細毛化などによるものかは、診察で確認する必要があります。生え変わりによる通常の脱毛で、毛包の働きが保たれていれば、同じ毛包から再び毛が生えてくることが期待されます。
数年後に「薄くなった」と感じる主な原因
術後数年たってから移植部が薄く見える原因は、1つとは限りません。次のように分けて考えると整理しやすくなります。
| 考えられる原因 | 薄く見えやすい場所・特徴 | その後の見通し(一般的な考え方) |
|---|---|---|
| 移植毛の生え変わり(ヘアサイクル) | 移植部そのもの。抜け毛が増えたように感じる | 毛包の働きが保たれていれば、同じ毛包から再び生えることが期待される。ただし、生え変わりだけで目立って薄くなるとは限らない |
| 周りの既存毛のAGAの進行 | 移植部の奥(既存毛との境目)や、移植していない頭頂部など | 移植毛とは別に、既存毛は進行しうる。治療方針は医師と相談 |
| AGAの影響を受けやすい範囲から採取された毛 | 移植部全体の毛が細くなる・ボリュームが落ちる | 元の場所でも細くなる性質の毛は、移植先でも長期的に細くなる可能性がある |
| 加齢による毛質の変化 | 移植部だけでなく、後頭部・側頭部を含めて全体的に細くなる | 年齢とともに毛の太さが少しずつ減ることがある |
| その他の脱毛症・頭皮の病気 | 急に抜け毛が増えた、円形に抜けた、赤みやかゆみ・痛みがある など | 発熱・体重減少・薬の変更などをきっかけとする休止期脱毛や、円形脱毛症、炎症を伴う脱毛症などの可能性もあり、診察が必要 |
※実際には複数の原因が重なっていることも多く、上の表だけで判断することはできません。また、細い毛が多く移植された、移植した密度が足りなかったなど、もともとの仕上がりの問題が、時間がたってから気になり始めることもあります。
移植部の奥や周りの既存毛が薄くなる
植毛で移した毛はAGAの影響を受けにくい一方、移植部の周りや奥に残っている既存毛は、AGAの影響を受け続けます。そのため、生え際に植毛したあと、その奥の既存毛が細くなると、移植部と後ろの髪のあいだが薄く見えることがあります。本人は「植えた毛が減った」と感じやすいものの、実際には移植毛ではなく、周りの既存毛の変化で説明できる場合もあります。
教科書でも、植毛の計画では将来の脱毛範囲を見込んでおくことが大切とされ、移植部と残った髪のあいだに脱毛部ができたり、移植部だけが島のように残ったりするのを避けるよう述べられています。
「安全領域」から外れた毛は細くなることがある
後頭部・側頭部の中でも、将来にわたってAGAの影響を受けにくいと考えられる範囲は「安全領域(セーフティーゾーン)」と呼ばれます。安全領域は、高齢になっても髪が残りやすい範囲を調べた研究などをもとに考えられていますが、あくまで目安で、境界には個人差があります。
教科書では、安全領域の外(上側や下側)から採取した毛は、将来失われる可能性があるとされています。FUE(1株ずつくり抜く方法)は採取できる範囲が広い一方、安全領域から外れた位置からも採れてしまうため、注意が必要です。
安全領域から外れた毛は、移植後も元の場所の脱毛しやすい性質を保ち、長期的に細くなる可能性があります。当院では、採取の位置が安全領域から大きく外れている場合、仕上がりの時期を過ぎてから、かえって移植部の毛が細く感じられることがあると考えています。採取した毛そのものがAGAの影響で細くなっていることが原因であれば、自然な生え変わりだけで元の太さに戻るとは限りません。ただし、実際にはほかの原因が重なっていることもあるため、診察で確認が必要です。
一度生着した移植毛も、将来薄くなることはある?
当院の臨床経験では、術後1年を過ぎて順調に伸びていた移植毛が、後から急にまとまって失われるケースは多くありません。ただし、原因は個別に確認する必要があります。一方で、採取した範囲、周りの既存毛の進行、加齢、ほかの脱毛症など、手術後の長期的な変化には複数の原因が関わり、移植毛が何年後もそのままの状態で残ることを保証するものではありません。原因は1回の診察だけでは特定しきれないこともあり、経過を見ながら判断することもあります。
移植部が薄くなったときの対処法
- 既存毛のAGAが進行している場合:内服治療
- 移植毛が細くなった場合:経過観察と治療薬
- 密度が足りない場合:追加植毛(ドナーの残量次第)
- 他院で手術を受けた場合の相談先
自分で確認できること・受診の目安
「薄くなった」と感じたら、まず次の点を整理しておくと、診察で原因を見極めやすくなります。
- どこが薄いか:移植部そのものか、移植部の奥(既存毛との境目)か、移植していない頭頂部などか。
- いつから・どのくらいの期間か:数ヶ月の変化か、1〜2年かけた変化か。
- 毛の状態:毛の数が減ったように見えるのか、1本1本が細くなったのか。
- 写真の比較:術後半年・1年・現在など、同じ照明と角度で撮った写真があると変化が分かりやすくなります。
- 治療薬の状況:AGA治療薬を中止・変更した時期と重なっていないか。
数年後に以前より薄くなったと感じた場合は、生え変わりと自己判断して長く様子を見るのではなく、手術を受けた医療機関に相談しましょう。とくに次のような場合は、早めの受診をおすすめします。
- 短期間で急に抜け毛が増えた、円形に抜けた部分がある
- 薄さが進んでいるように感じる
- 移植部の毛が全体に細くなり、ボリュームが落ちた
- 移植部以外(頭頂部・生え際の奥など)の薄毛も進んでいる
- 移植部や頭皮に赤み・痛み・かゆみ・ふけ・炎症などの症状がある
診察で医師が確認すること
当院では、移植部の毛の密度や太さに加えて、採取部の傷跡を確認することを重視しています。採取痕の分布から、どの範囲から採取されたのかを推定できる場合があり、安全領域から外れた採取が関わっていないかを考える手がかりになります。ただし、傷跡だけで細毛化の原因を特定することはできません。
必要に応じて拡大鏡などで毛の太さのばらつきや毛穴の周りの状態も確認し、移植部の奥の既存毛の状態、頭頂部など移植していない部位の進行、体調や服薬の変化、過去の写真との比較とあわせて、原因を総合的に判断します。
移植毛が薄くなると、移植部の傷跡は目立つ?
移植した穴の跡は、術後半年程度では近くで見ると分かることがあります。こうした小さな傷跡は、時間がたつにつれて目立ちにくくなる場合がありますが、小さなくぼみや色の変化が長く残ることもあります。見え方は、移植した穴の大きさや密度、術後の炎症の有無、傷の治り方などによって個人差があります。気になる場合は、診察で状態を確認してもらいましょう。
長く密度を保つために、手術前から考えておきたいこと
移植毛が長く残るかどうかは、術後のケアだけでなく、手術の計画段階で大きく左右されます。
- 採取する範囲とグラフトの選び方:ドナーの密度と安全領域をふまえて採取する範囲を決め、移植する場所に合わせて適切な太さ・本数のグラフトを選ぶ計画かどうか。
- 将来の脱毛を見込んだデザイン:今の薄毛だけでなく、年齢や進行の見込みをふまえ、後から移植部が浮いて見えないようなデザインになっているか。
- 既存毛への治療:植毛は毛包を移植して移植部の毛量の改善を目指す治療で、周りの既存毛のAGAの進行を止めるものではありません。フィナステリド・デュタステリドの内服など国内で承認されているAGA治療薬を続けるかどうかは、副作用も含めて医師と相談して決めます。
- ドナーの使い方:後頭部から一生で採れる量には限りがあります。将来の追加手術も考えた配分については「自毛植毛は一生で何グラフト採れる?」で解説しています。
自毛植毛の費用と主なリスク・副作用
自毛植毛は保険が適用されない自由診療です。当院の手術料金は「基本料金205,000円(税込)+1グラフトあたりの料金×グラフト数」で決まります。アルモHi-STANDARD法・アルモUn-SHAVEN法は、いずれもFUE(1株ずつくり抜く方法)を用いた当院の施術名称です。
| 術式(当院) | 1グラフトあたり(税込) | 1,500グラフトの総額例(税込・血液検査込み) |
|---|---|---|
| アルモHi-STANDARD法(刈り上げる) | 1,078円 | 1,833,000円 |
| アルモUn-SHAVEN法(刈り上げない) | 1,870円 | 3,021,000円 |
※総額例は、手術料金に手術前の血液検査11,000円(税込)を加えた金額です。感染症がある場合は、別途感染症対策料198,000円(税込)がかかります。詳しくは植毛メニュー(料金表)をご確認ください。
自毛植毛には、腫れ、痛み、出血、かゆみ、感染、血行不全、移植毛の生着不良、傷跡、採取部の密度低下、毛のう炎、感覚の違和感、ショックロス(周りの既存毛の一時的な脱毛)、くせ毛などのリスクがあります。移植した毛の密度や太さ、その後の経過には個人差があり、周りの既存毛の薄毛が進むことで、仕上がりの印象が変わることもあります。
移植毛が数年後に薄くなることに関するよくある質問
Q. 植毛から3年ほどで移植部が薄くなった気がします。また生えてきますか?
原因によって異なります。通常の生え変わりで毛包の働きが保たれていれば、同じ毛包から再び毛が生えることが期待されます。一方、周りの既存毛のAGAの進行、安全領域から外れた範囲から採取された毛の細毛化、ほかの脱毛症などが関わっている場合は、見通しが変わります。生え変わりだと自己判断して様子を見続けるのではなく、まずは診察を受けて原因を確認しましょう。
Q. 植毛した毛もAGAで抜けることはありますか?
後頭部・側頭部の安全領域から採取した毛は、移植後もAGAの影響を受けにくいと考えられています。ただし、安全領域の境界には個人差があり、将来の毛量を保証するものではありません。一方、安全領域から外れた範囲の毛は、元の場所でも細くなる性質を持つことがあり、移植先でも細くなる可能性があります。また、加齢によって毛全体が少しずつ細くなることもあります。
Q. 薄くなった部分に、もう一度植毛することはできますか?
後頭部のドナーに余裕があり、頭皮の状態に問題がなければ、追加の植毛を検討できる場合があります。ただし、薄く見える原因によって適した対応は異なるため、まずは原因を見極めることが大切です。追加手術が適しているかどうかは、ドナーの残り量や周りの既存毛の状態を診察したうえで判断します。
まとめ
植毛した毛も、元の場所の毛と同じようにヘアサイクルを繰り返すため、術後数年たって移植部の毛が抜けても、それだけで毛包が失われたとは限りません。
ただし、通常の生え変わりだけで目に見えて薄くなるとは限らず、移植部の奥の既存毛のAGAの進行、安全領域から外れた範囲から採取された毛の細毛化、加齢による変化、ほかの脱毛症など、さまざまな原因が考えられます。
生え変わりと自己判断せず、どこが・いつから・どのように薄くなったのかを整理し、写真や採取部の状態とあわせて、手術を受けた医療機関で確認してもらいましょう。術後の経過全体は「自毛植毛の術後経過について」もあわせてご覧ください。
参考文献:Unger R, Shapiro R, eds. Hair Transplantation, 6th ed. Thieme; 2022(植毛の歴史とドナー・ドミナンス、長期計画と安全採取領域、FUEとFUTの比較の各章)。移植毛の生え変わりの目安などの当院の考え方は、院長の臨床上の見解です。
執筆:編集部/監修:内田直宏医師