なおるん毛髪情報局
植毛後にグラフトが浮く・飛び出す「ポップアップ」とは?原因と生着への影響・手術側の対策
【この記事の結論】
植毛の「ポップアップ(popping)」は、移植穴(スリット)に入れたグラフト(毛包を含む小さな組織)が、周りの圧力で押し出されて皮膚面から浮き上がったり、飛び出したりする現象です。主に手術中のグラフトを植える工程で起こり、原因は移植穴とグラフトの大きさや形の不一致、穴同士の干渉、出血やむくみによる内圧の上昇などに分けられます。
浮いたまま放置されたグラフトは、穴の中の組織との密着が弱く、乾燥しやすいため、生着(血流がつながって根付くこと)に不利になると考えられています。術者が気づいて入れ直すことが基本で、当院では移植穴の径とグラフトの太さを合わせる株分けなどで、ポップアップを起こしにくくする工夫をしています。ただし、手術の工夫だけで生着が保証されるわけではありません。
術後数日に「グラフトが浮いて見える」場合、多くはかさぶたや腫れによる見え方ですが、実際にグラフトが抜けかけている可能性もあるため、自分では判断せず、押し込まずに手術を受けた医療機関へ写真で相談してください。
※この記事は、手術中に起こる「グラフトの浮き上がり」の仕組みと原因、生着への影響、手術側の対策を解説します。術後の最初の数日の過ごし方は「植毛後48時間が重要といわれる理由」、生着の意味や経過の目安は「植毛の生着率(定着率)とは?」で解説しています。自毛植毛の全体像は「自毛植毛」のページをご覧ください。
ポップアップ(グラフトの浮き上がり)とは
自毛植毛では、後頭部などから採取したグラフトを、移植部にあらかじめ作った小さな穴(スリット)へ1株ずつ植えていきます。このとき、入れたはずのグラフトが、隣のグラフトを植えた瞬間や出血の圧で穴から押し戻され、皮膚の表面より高く浮いてきたり、完全に外へ飛び出したりすることがあります。これが「ポップアップ」で、英語の植毛文献ではpopping(ポッピング)と呼ばれます。「グラフトの浮き上がり」「押し出し」などと表現されることもあります。
ポップアップは、基本的に手術中(グラフトを植えている最中から植え終わった直後)の現象です。術後数日たってからグラフトが抜ける「脱落」や、術後1か月前後に移植した毛が一時的に抜ける経過(これは毛だけが抜け、毛包は残っている状態が多い)とは別の出来事として考えます。
| 現象 | 起こる時期 | 何が起きているか |
|---|---|---|
| ポップアップ(浮き上がり) | 手術中〜術直後 | 植えたグラフトが圧で押し出され、皮膚面から浮く・飛び出す。術者がその場で入れ直す |
| グラフトの脱落 | 術後数日まで | こする・ぶつけるなどの外力や、かさぶたを引っ張ることでグラフトごと抜ける |
| 移植毛の一時的な抜け毛 | 術後2週〜1か月前後 | 毛だけが抜け、毛包は頭皮に残っている状態が多い。数か月後に生えてくる経過が一般的 |
なお、植えた直後のグラフトの上端は、皮膚面のすぐ近く、またはわずかに高い位置に見えることがあります。植毛の教科書でも、グラフトは「少し高めに、しかし周りの皮膚となじむように」置くという考え方が紹介されていますが、適切な高さは手技や移植部の状態によって異なります。手術直後の写真でグラフトの上端が白く小さな点として見えても、それだけでポップアップとは判断できません。
術後に「グラフトが浮いている・飛び出している」と感じたとき
手術が終わって帰宅した後に、移植部を鏡で見て「株が浮いているのではないか」と不安になる方がいます。術後数日の移植部は、グラフトの上端に血液や組織液が固まったかさぶたが付き、小さな粒が盛り上がって見えることがあります。
多くはかさぶたや腫れによる見え方ですが、実際にグラフトが抜けかけている、または抜けている可能性を自分で見分けることは難しいため、触らずに相談するのが基本です。かさぶたの経過は「植毛のかさぶたはいつ取れる?」で解説しています。
- 自分で押し込まない・触らない:浮いているように見えても、指で押し込んだり引っ張ったりしないでください。グラフトは術後1週間前後で物理的に抜けにくくなっていくのが目安で、それまでは外からの力で抜けることがあります。
- グラフトが抜けたかもしれないとき:抜けた毛の根元に白っぽいものが付いていても、それだけでグラフト全体が抜けたとは判断できません(毛根鞘などが付いて見えることもあります)。出血や痛みを伴う場合や、組織ごと抜けたように見える場合は、手術を受けた医療機関に写真を送って相談してください。仕上がりへの影響は、抜けた株数や部位によって異なります。出血が続く場合はガーゼで軽く押さえ、医療機関の指示を受けてください。
- 毛だけが抜けたとき:術後2週間〜1か月前後に、白い組織が付いていない毛が抜けるのは通常の経過としてよくみられます。それだけで生着の成否は判断できません。
術後の過ごし方の基本(こすらない・ぶつけない・強く圧迫しない)は「植毛後48時間が重要といわれる理由」にまとめています。
なお、術直後の移植部の写真では、グラフトの上端の高さがそろっているかなど、移植部の状態を一部確認できますが、血液の付着やグラフトの見え方だけで、手術中にポップアップが起きたかどうかや手術の質を判断することは難しいです。症例写真の見方は「植毛の症例写真の見方」で解説しています。当院の症例
ポップアップが起こる主な原因
ポップアップの原因は一つではなく、移植穴・グラフト・頭皮の状態・植える手順が組み合わさって起こります。植毛の教科書では、移植穴の大きさをグラフトの大きさに合わせることが、ポップアップを防ぎ、グラフトを傷めずに植えて良好な発毛につなげる条件として挙げられています。また、植えている最中に出血やポップアップが起きたら、その原因をすぐに見直して修正する必要があるとされています。
| 原因 | どう起こるか |
|---|---|
| 移植穴とグラフトの大きさ・形が合っていない | 穴がグラフトより小さい、または浅いと、入り切らない部分が押し戻される。グラフトに余分な脂肪や皮膚が多く付いたままでも起こりやすい |
| 穴同士の干渉 | 密度を高くするために穴を近づけすぎると、隣のグラフトを入れた圧で先に植えた株が持ち上がる。線状のスリットに太いグラフトを押し込むと、傷が広がって隣の穴と干渉しやすい |
| 出血・むくみによる内圧の上昇 | 穴の中からの出血や、麻酔液・組織のむくみで皮膚の内圧が上がると、グラフトが押し出されやすくなる |
| 植える順序・力のかけ方 | 隣接する穴に続けて植えるときの圧や、ピンセットでグラフトを強く押し込んだ反動で浮くことがある |
| 刃の切れ味 | 教科書では、穴を作ってすぐに植える方法(スティック・アンド・プレイス法)において、鋭い平刃を使うとポップアップが少ないとされている |
院長は、ホールスリット(丸い穴)とラインスリット(線状の切れ込み)を比べたうえで、線状のスリットに2〜4本毛の太いグラフトを詰めて植えると、グラフトが収まりきらずに浮き上がりやすく、傷が広がって隣の穴と干渉することがあると説明しています(院長の臨床上の見解です。ラインスリットにも、細い1本毛を繊細に並べる生え際の最前列などで利点があります)。ホールスリットが線状のスリットより常に優れているということではなく、部位やグラフトの太さによる使い分けです。
移植穴の作り方と密度の考え方は「既存毛間植毛とは?」でも触れています。
ポップアップは生着にどう影響するか
グラフトが穴から浮いた状態では、グラフトと穴の中の組織との接触面が小さくなり、周りの組織からしみ出る液体や、その後につながる血流から栄養や酸素を受け取りにくくなります。また、外に出た部分は乾燥しやすく、乾燥はグラフトを傷める大きな要因です。そのため、浮いたまま放置されたグラフトは生着に不利になると考えられています。
ただし、「ポップアップが1回起きたら、そのグラフトは生着しない」というものではありません。手術中は術者や看護師が移植部を常に確認し、浮いたグラフトはその場で穴に戻すか、別の穴に植え直します。速やかに乾燥させずに適切な深さへ戻すことで、生着への悪影響を抑えられる可能性があります。
ただし、戻す際の操作による損傷なども関係するため、個々のグラフトの生着が保証されるわけではありません。ポップアップが「どのくらい生着率を下げるか」を正確に示したデータは限られており、頻度や影響の大きさは、頭皮の状態や手技によって変わります。
生着そのものは、採取・株分け・乾燥対策・移植といった手術側の要因、喫煙や頭皮の状態などの体の要因、術後の過ごし方の3つに左右されます。ポップアップへの対策はそのうち「手術側の要因」の一部です。グラフトの採取後の管理は「植毛の「株分け」とは?」で解説しています。
ポップアップを起こしにくくする手術側の工夫
当院では、ポップアップを起こしにくくするために、次のような点に気を配っています。いずれも「起こさないための工夫」であり、頭皮の状態によってはポップアップが起こることはあります。その場合は、その場で入れ直します。
- 移植穴の径とグラフトの太さを合わせる:株分けの工程で、グラフトの太さや周りに付いた組織の量を整え、移植穴の径・深さとの適合を図っています。穴に対してグラフトが大きすぎても小さすぎても、浮きやずれの原因になります。
- 太いグラフトには丸い穴(ホールスリット)を選ぶことが多い:2〜4本毛の太いグラフトは、線状のスリットより丸い穴の方が収まりがよく、隣の穴との干渉も起きにくいと院長は考えています。これは院長の臨床経験に基づく使い分けで、丸い穴が常に優れていることを示すものではありません。生え際の最前列など、細い1本毛を並べる部分では線状のスリットを使います。
- 穴の深さと角度をそろえる:穴が浅いとグラフトが収まりきらず、深すぎると埋まりすぎて別の問題(皮膚のくぼみなど)が起こります。既存毛の生えている角度に合わせて穴を作ることで、グラフトが素直に収まりやすくなります。
- 出血を抑える:出血が続く穴にはグラフトが入りにくく、入れても押し戻されます。穴の大きさを必要最小限にすることや、止血を確認しながら植えることで、出血による内圧の上昇を抑えます。
- 植える順序と確認:隣接する穴に続けて植えるときは、先に植えた株が持ち上がっていないかを確認しながら進めます。植え終わった後にも、移植部全体を見直して浮いた株がないかを確認します。
当院が行っているアルモHi-STANDARD法(刈り上げる方法)とアルモUn-SHAVEN法(刈り上げない方法)は、採取時に刈り上げるかどうかが違い、移植穴の作り方やグラフトを植える工程の考え方は共通です。手術にかかる時間と「速さ」の見方は「植毛の手術は何時間かかる?」で解説しています。
自毛植毛の費用と主なリスク・副作用
自毛植毛は保険適用外の自由診療です。手術料金は「基本料金205,000円(税込)+1グラフトあたりの料金×グラフト数」で計算します。1グラフトあたりの料金は、アルモHi-STANDARD法(刈り上げる)が1,078円、アルモUn-SHAVEN法(刈り上げない)が1,870円(いずれも税込)です。
| グラフト数 | アルモHi-STANDARD法(刈り上げる) | アルモUn-SHAVEN法(刈り上げない) |
|---|---|---|
| 1,000グラフト | 1,283,000円 | 2,075,000円 |
| 1,500グラフト | 1,822,000円 | 3,010,000円 |
| 2,000グラフト | 2,361,000円 | 3,945,000円 |
※いずれも税込・手術料金の計算例です(2026年10月時点)。このほか手術前の血液検査11,000円(税込)がかかり、感染症がある方は別途感染症対策料198,000円(税込)がかかります。血液検査を含めた総額の例:1,000グラフトを刈り上げる方法で行う場合、1,283,000円+11,000円=1,294,000円(税込)です。最新の料金は植毛メニュー(料金表)をご確認ください。手術は原則1回で行い、術後は定期的な診察で経過を確認します。
主なリスク・副作用:術後の痛み・腫れ・内出血・出血、かさぶた、かゆみ、既存毛の一時的な脱毛(ショックロス。回復しない場合を含む)、感染、毛嚢炎、採取部や移植部のしびれ・感覚の鈍さ、採取部の点状の傷跡や密度の低下、まれに移植部の血行障害(皮膚の壊死を含む)、移植毛が十分に生着しない可能性、移植毛にくせが出る可能性があり、仕上がりの自然さや密度の感じ方には個人差があります。自毛植毛はAGAの進行を止めるものではありません。ショックロスについては「植毛後のショックロスとは?」で解説しています。
ポップアップに関するよくある質問
Q. ポップアップが起きたグラフトは、もう生着しませんか?
速やかに乾燥させずに適切な深さへ戻せば、生着への悪影響を抑えられる可能性があります。ただし戻す際の損傷なども関係するため、個々の生着は保証できません。放置された場合に生着へどの程度影響するかを示すデータは限られています。
Q. 密度を高く植えるとポップアップが増えますか?
穴同士の距離が近くなるほど、隣のグラフトを植えた圧で先に植えた株が持ち上がりやすくなります。そのため高密度に植える場合は、穴の大きさ・深さ・形をグラフトに合わせることや、出血を抑えることがいっそう重要になります。密度の考え方は「日本人の正常な毛髪密度は1㎠あたり何本?」で解説しています。
Q. 術後に鏡で見ると株が浮いて見えます。押し込んだ方がよいですか?
押し込まないでください。術後数日はかさぶたでグラフトの上端が盛り上がって見えるのが普通で、指で触ると抜けたり、感染の原因になったりします。気になる場合は写真を撮って、手術を受けた医療機関に相談してください。
Q. 手術中にポップアップが起きたかどうかは、患者には分かりますか?
手術中は患者さん自身には分かりません。術直後の移植部の写真で状態を一部確認することはできますが、写真だけで手術中の出来事や手術の質を判断することは難しいため、気になることは手術を受けた医療機関に直接確認してください。よくある質問はこちらにもまとめています。
Q. 植毛したグラフトは何日目から抜けにくくなりますか?
移植したグラフトは、術後数日で周りの組織とくっつき始め、術後1週間前後(目安として7〜10日)で物理的に抜けにくくなっていきます。それまでは、こする、ぶつける、かさぶたを無理にはがすといった外からの力で、グラフトごと抜けることがあります。
抜けにくくなる時期には個人差があります。また「抜けにくくなる」ことと「生着した(毛が生えてくる)」ことは別です。シャンプーの方法やかさぶたの扱いは、手術を受けた医療機関の指示に従ってください。術後の過ごし方は「植毛後48時間が重要といわれる理由」、かさぶたの経過は「植毛のかさぶたはいつ取れる?」で解説しています。
Q. 寝ている間に枕でこすってしまいました/シャンプーで移植部を触ってしまいました。大丈夫ですか?
軽く触れた程度であれば、多くの場合は問題ありません。術後数日は、枕やタオルに点状の血液や組織液が付くことがよくあり、それだけでグラフトが抜けたとは限りません。
次のような場合は、移植部と枕・タオルの写真を撮り、手術を受けた医療機関に相談してください。
- 移植部から出血が続いている
- 枕やタオルに、毛の根元に白っぽい組織が付いたものが複数見つかった
- 移植部に、他より明らかにへこんだ部分や、毛が抜けて穴のように見える部分がある
心配でも、移植部を指で確かめたり押さえ直したりしないでください。出血している場合は、清潔なガーゼで軽く押さえ、医療機関の指示を受けてください。
Q. 抜けてしまったグラフトは、植え直すことができますか?
帰宅後に抜けたグラフトを植え直すことは、一般的には難しいと考えられています。体の外に出たグラフトは乾燥や血流不足で傷みやすく、時間がたつほど生着の可能性は下がります。また、抜けた穴は閉じ始めているため、同じ場所にもう一度入れるのは困難です。
数株が抜けても、全体の仕上がりへの影響は限られることが多いです。ただし、影響の大きさは抜けた株数や部位(生え際など目立つ場所かどうか)によって異なります。仕上がりは術後1年前後で評価するのが一般的で、密度が足りない部分があれば、その時点で追加の移植を検討します。
自分で植え戻そうとしないでください。抜けたものは捨てずに清潔な容器に入れて保管し、写真とあわせて医療機関に相談すると、状況を判断しやすくなります。
Q. インプランター(植毛器)で植える方法と、ピンセットで植える方法では、ポップアップの起こりやすさは違いますか?
植え方には大きく2つあります。
- あらかじめ穴を作ってから、ピンセットでグラフトを入れる方法
- インプランター(グラフトを装填したペン型の器具)で、穴を作ると同時に植える方法
インプランターは、穴を作るのとほぼ同時にグラフトが入るため、穴を作ってから植えるまでの出血や、グラフトをつまむ回数を減らしやすいとされています。一方で、器具の針の太さとグラフトの太さが合っていないと、ピンセットで植える場合と同様に、浮きや押し戻しが起こります。
どちらの方法でも、ポップアップが起こるかどうかは器具よりも、穴とグラフトの適合、出血の管理、植える順序と確認に左右されます。器具の名前だけで優劣は判断できないため、カウンセリングでは「どのように穴を作り、どう植えるのか」を確認するとよいでしょう。
まとめ
- ポップアップは、植えたグラフトが圧で押し出されて浮く・飛び出す手術中の現象で、移植穴とグラフトの不一致、穴同士の干渉、出血やむくみによる内圧の上昇などが原因です。
- 浮いたまま放置すると乾燥や密着不足で生着に不利になると考えられており、術者がその場で入れ直すことが基本です。
- 当院では、株分けで移植穴の径とグラフトの太さを合わせることや、太いグラフトに丸い穴を選ぶことなどで起こしにくくしていますが、手術の工夫だけで生着が保証されるわけではありません。
- 術後に浮いて見えるものの多くはかさぶたや腫れによる見え方ですが、自分では判断せず、触らずに医療機関へ写真で相談してください。
参考文献:Unger R, Shapiro R, eds. Hair Transplantation. 6th ed. Thieme; 2022(移植穴の大きさとグラフトの大きさを合わせることがポップアップの予防につながること、グラフトは皮膚面よりわずかに高く周囲となじむように置くこと、植える最中の出血やポップアップはすぐ原因を見直すこと、スティック・アンド・プレイス法で鋭い平刃を使うとポップアップが少ないことについて記述のある章(ラテンアメリカの患者の章・器具の章))。「当院では」「院長は」とある記述は、院長の臨床上の見解または当院の案内です。
執筆:編集部/監修:内田直宏医師